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三瀬村国民保険診療所実習見学レポート

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福岡大学医学部医学科1年 石原 具和

[実習期間] : 2002年12月25日(水)〜26日(木)

[実習希望理由] : 朝日新聞(2002.9/26付)の記事を見たのが契機です。9月当初に福岡大学病院内で看護実習を体験しましたが、そこで患者さんとのコミュニケーションの大切さを実感し、未だ医学的知識も無い事は承知しつつも、低学年の内にプライマリケアを実践している診療所での実習を体験する事で、自分の医療に対する認識の幅を広げたいと思い、三瀬村での診療所実習見学を希望しました。

[診療所実習見学内容]

12月25日(水)午前 到着後、早速午前中の診療に立ち合わせて頂いた。最初とても緊張したが、先生が「基本的に何をしろとか指示は出さないが、患者さんは実習生がいる事に慣れているので、遠慮せず横で診療状況を見る様に。」と言われたので、少し安心して先生の横で実際の診療状況を見学させて頂いた。殆どの患者さんが高齢な方が多く、改めて老人医療の大切さを実感した。様々な患者さんがいらっしゃったが、その中で特に印象に残った事について、以下に列記する。

40代の女性。発熱無し。黄色い洟が出て、口内炎も出来ているとの事。患者さんの話では、治したい一心で市販の風邪薬を併用していたらしい。そこで先生が、風邪薬等の抗生物質や痛み止めの薬は口内炎が出来たり、胃腸を痛めたりと副作用を起こし易く、複数の薬の併用は余り良くない事を説明された。(体調が良ければいいのだが、この患者さんは体調が非常に弱っていたらしい)年末なので1週間分欲しいと言っていたが、前述の理由で数日分処方して様子を見る様に、1週間分処方する事が貴方にとってベストではない、という事を説明されていた。患者さんに薬の副作用・自分の体調に合わせた療法について説明する事により、十分納得して頂けたのが分かった。

50〜60代の男性。糖尿病の疑い。以前通院していた医師に減量を勧められ、減量したが、糖尿病にとって減少時が一番危険との事。本人は、ここの所仕事が多忙の為、身体的に非常に疲れた状態との事。根本的に食事療法が中心で、薬の処方としては、カロリー吸収を抑制する薬、インシュリンの働きを促進させる薬を併用する。多忙な為、ここ2年間位検診を受けてないとの事で、定期的な検診を住民に促す必要性を実感する。

・インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンの予防接種を受けられる患者さんが多数見受けられた。特にご高齢の方々には殆どといっていい程受診されているらしく、そのお陰でここ数年は罹患者が激減しているとの事。しかし、それを今年はインフルエンザが流行しなかったという風に捉えて、中年・若年層の方の未接種の方が多く、今年はインフルエンザの罹患は若年層(子供やその親)が殆どだという事。インフルエンザは風邪と異なり、感染性が非常に強く、酷い場合、肺炎・脳炎を併発する事も有るとの事。恥ずかしながら、自分もインフルエンザの予防接種をここ10年位行なってないので、自分の予防接種に関する認識の甘さを痛感し、それと共に、住民の皆さんに危険性を訴えて予防接種の重要性を伝える事が非常に大事な事であるのを実感した。(以前大学で予防医学の重要性について講義を受けたが、正にその通りだと思った)

(往診)     昼休憩後、往診に付き添いをさせて頂いた。今日は「シルバーケア三瀬」の1件だけであったが、現在村内の道路は整備されていてどの家庭へも15分程度で行く事が可能だという事。救急の場合でも迅速に対応出来る事が分かった。ここで印象に残っているのは、看護師さんが血圧測定する時に、「寒かったねぇ。ちょっと我慢してねぇ」と言った瞬間に患者さんの顔がパァっと微笑んだ事だ。ちょっとした事で患者さんの気持ちを緩和出来るんだ、という事を実感した。

12月25日(水)午後 ・救急隊員から電話有り。20代女性が温泉で50分浸かった後倒れてしまう(今は回復)大事をとって後で病院に救急車で運ばれて来た。殆ど湯船に浸かり、最後の方は心臓がドキドキしており、シャワーを浴びている時にフラッとなり、意識を失ったそうだ。普段でも家のお風呂でも心臓がドキドキして目眩をする事があり、また低血圧との事なので、やはり長風呂は危険で、心臓がドキドキするのも危険信号のサインだと思われるので、適度な時間入浴し、水分を沢山補給する事が大事(但し、アルコールは利尿作用が高いのでダメ、逆に脱水症状を引き起こす可能性有り)という事を説明。結局原因は湯当たり(いわゆるのぼせ)であった。今回は、若いカップルだったから未だ湯当たり程度で済んだが、嬉野温泉や武雄の辺りでは湯治に来た老人客が倒れることは良くある事だそうだ。自分も温泉は好きなので、気を付けなければならない、と反省。

・患者さんがいない間は、ビデオ学習を行なった。家庭医に関するものや、辺地医療に取り組む医師に関するものを見せて頂いた。今迄家庭医という言葉を余り耳にする事は無かったので、非常に興味深かった。欧米では1つの専門科として認識されているが日本では馴染みが非常に薄く、今後生涯を通して住民と付き合っていく(どんな病気でも診る)医療というのは重要になってくると思う。自分自身もこの分野に非常に興味が有るが、様々な問題も孕んでいるので、今後自分なりに勉強していきたい。

・夜は白浜先生のご自宅で夕食をご馳走になった。クリスマスという事もあり、非常に美味しい食事を頂いた。奥様や子供さんとも沢山お話しする事が出来、自分にとって忘れられないクリスマスとなった。

12月26日(木)午前 ・朝礼後、早速診察へ。年末という事もあるが、診療時間前から20人程度の患者さんが待合室にいらっしゃった。1日30人位の外来患者が来られるという事であったが、初めて目にした為、これ程の多くの患者さんが朝早くから来られる事にびっくりした。と共に、この村に唯一の診療所で、村民の皆さんがここを頼って来られているのだ、という事に、この診療所の存在の大きさを改めて実感した。

・今日は最初から血圧測定をやらせて頂いた。大学の医学祭の健康診断で1度行なった事はあるが、実際の患者さんを相手に行なうのは初めてだったので、大変緊張した。先生に途中持ち方等のアドバイスを受け、徐々に慣れていった。一番嬉しかったのは、患者さんがニコニコしながら、自分にも話しかけてくれた事だ。そのお陰で、緊張していたのが凄く楽になって、大変有り難かった。ご高齢の為、高血圧気味の方がしばしば見受けられたが、先生が「ここの所安定していますよ」と声を掛けられると、患者さんの顔が凄くほころび、ニコニコされたのが印象的だった。私は余り慣れていない為、どうしても血圧測定の方に集中してしまいがちだったが、先生や看護師さんの様に、何気ない言葉を掛けてあげる事で、患者さんが大変リラックスして診察出来るのを見て、私も今後実習する時には患者さんを如何にリラックスさせられるかに留意しよう、と思った。

70〜80代の狭心症の発作がある男性が、家族と共に来院。以前心筋梗塞で入院された事もあり、今回も2,3日前から発作が有ったとの事。直ぐに佐賀医科大学付属病院の循環器外来の方へ紹介状を書き、早急にそちらで診察して貰える様指示。(救急外来だと、救急医療の範囲でしか診て貰えない為)更に、先生の方も、佐賀医科大学付属病院の受付・循環器外来に電話をし、診療所の紹介で優先的に診察して頂く旨を伝えていた。この様な心配りも大事である事を実感した。昨日のビデオ学習でオープン病床システム(開業医と総合病院の連携システムの一例で、総合病院での入院が必要と判断された場合は優先的に入院可能になるシステム)を見たが、今後この様な連携システムが地域住民にとって重要で安心出来るシステムだと感じた。

・喉がここの所痛い、という患者さんが来られる。今日はそうでもないが、ご飯を飲み込んだりする時に痛い、と感じるそうだ。先生が喉の様子を見たが、外見上症状は見られない。患者さんに「私が診察する限りでは喉の腫れとかは見えませんが、おばあちゃんは痛みを感じるんですよね。多分おばあちゃんは他の人よりも感受性が高いんですよ。本当に水を飲んだりして痛む様だったら喉の奥迄検査した方が良いですけど、今の状態なら余り気になさらない方が良いですよ。僕にはむしろ、おばあちゃんが喉の調子が全く良くなった、って言う方が怖いですけどね。」と説明していた。おばあちゃんも納得しており、うまい説明だな、と感心した。

12月26日(木)午後 ・午前中は大勢の患者さんが外来に見えられたが、午後は少なかった為、患者さんが来られた時を除いてビデオ学習を行なった。白浜先生の様に、医師1人で地域全体の医療を受け持つ人に関するビデオで、今現在多くの地域で医師が1人しかいない、或いは無医村の地域が存在するという事を聞いて愕然とした。医師過剰で今後医師の数を減少させようという動きがある一方、医師不足で悩む地域が多い、という矛盾性に大きな疑問を感じた。私はこの診療所に2日(正確には1日半)しかいなかったが、それでも村民の皆さんが村に1つしかない診療所を頼っているのを実感出来たし、国のレベルでこういう辺地医療の重要性を考えて欲しい、と思った。(ビデオで、「最近の医師は最先端の医療には接するが、最前線の医療には接していない」と言っていたが、正にその通りだと思った。(別に最先端の医療を批判する訳ではないが、それ一辺倒になって、地域医療を蔑ろにすべきではない、という事))

・バスの時間の関係で、診療時間前に帰る事になったが、白浜先生から、プライマリケアに関する参考資料を多数頂いた。現段階では完全に理解出来ないかも知れないが、専門課程に上がってから、今回の診療所実習見学が参考になれば、と思う。

[最後に] : 今回は、白浜先生に年末のお忙しい中、色々とご指導して頂き、誠に有難う御座いました。未熟な為、先生や看護師さん・その他スタッフの皆様にご迷惑をお掛けしましたが、自分にとってかけがえのない実習を送れたと思います。地域医療・プライマリケアについてもっと勉強して、今回の実習を活かせる様、頑張っていきたいと思っています。